建物(住宅や店舗、オフィス)を借りている場合に、貸主から退去してほしいと言われた場合、どうすればよいか、まとめた。
目次
1.借地借家法の規定はどうなっているか?
借地借家法28条は、解約の申し入れは、①建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む)が建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況及び建物の現況、④立退料の給付の申出の内容を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができないと定めている。
一般に、住宅であれば、建物が老朽化していないと、解約は難しいことが多い(但し賃借人がサブリース目的の賃貸の場合は解約は認められやすい)。一方、店舗では、建替をする経済合理性があれば、立退料は高額になる傾向はあるものの解約は認められやすい。
2.立退料の相場は?
一般に、以下の通りと言われているが、店舗については非常に高額になる。住宅やオフィスは移転してもそれほど影響はないが、店舗はその場所に客がつくため顧客を得るために一からやり直しになることが多いからだ。
住宅:6カ月~12カ月
オフィス:1~3年
店舗:非常に高額になる
3.判例(店舗)
(1)理髪店
令和 6年 6月19日富山地裁(2024WLJPCA06196008)
・昭和41年からの契約、家賃月額33,450円、共益費月額2,930円
・正当事由:耐震基準を満たさない危険な建物であったこと
・立退料は10,149,553円と認定
(2)病院
令和 6年 2月22日東京高裁(2024WLJPCA02226006)
・賃料は月額7,602,390円
・正当事由:建て替えにより賃貸人の収益力が向上すること
・移転先の改装費や販売している化粧品のラベルの張替え費用も考慮し、立退料は6億2000万円と認定
(3)焼肉店
・賃料は月額30万円
・正当事由:被告は他にも事業をおこなっており建物を使用する必要性が極めて高いとはいえない、建物が老朽化して建て替える必要があると認定
・立退料として、
借家権価格980万円
工作物補償1514万円、動産移転補償11万円、移転雑費補償273万円の合計1798万円
営業補償について、営業休止期間を2か月とした上で、収益減収の補償263万円、得意先喪失に伴う損失補償737万円、固定費経費の補償225万円、従業員に対する休業補償380万円の合計1605万円
の合計4383万円を立退料として認定
4.判例(住宅)
(1)令和 6年 1月31日東京地裁(2024WLJPCA01316009)
・賃料は月額72,000円
・被告側の事情として、DV被害から回復しつつあること、不安障害の治療を受け、相談相手が近隣に居住すること、原告の建替計画は詳細が明確でないことなどから、250万円の立退料の提示があったが正当事由なしとして請求棄却
(2)令和 5年 9月26日東京地裁(2023WLJPCA09266003)
・賃料は月額66,000円
・建物は老朽化しておらず、200万円の立退料の提示があったが正当事由なしとして請求棄却
(3)令和 5年 9月 8日東京地裁(2023WLJPCA09088007)
・賃料は月額43,000円
・築50年で耐震強度に問題があり、正当事由あり
・立退料は100万円と認定
(4)令和 5年 6月21日東京地裁(2023WLJPCA06218002)
・賃料は月額90,000円
・昭和47年築で建て替えの必要性がある。
・立退料は90万円と認定
5.判例(オフィス・事務室)
平成27年10月15日東京地裁(2015WLJPCA10158014)
・賃料は月額722,096円(共益費込み)
・賃借人と転借人の争い。賃貸人との関係から退去の必要性があるとし、引越実費950万円、人件費250万円から、転借人の帰責性も考慮しその7割の840万円を立退料として認定。