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コラム

社長の人事権は誰が持っているのか?経営権争いへの対策

サラリーマンとして会社に入社すると、上司が人事権を持っていることが多い。その上司は、役員が人事権を持っていたり、最終的には社長が人事権を持っていることが多い。

では、社長の人事権は誰が持っているのか。サラリーマンは、通常は、上司を見て仕事をすることが多いと思われるが、社長は誰を見て仕事をすべきなのだろうか。

1.過半数を持つ株主がいる場合

株式を過半数所有している者がいる場合、その人物が人事権を持っている。過半数の株式を持っていれば、臨時総会の開催を請求することができ、取締役を選任、解任することも自由だからだ(累積投票制でない場合には全員自己派の役員を選任できる。累積投票制の場合であれば、奇数の選任議案を出せば過半数が取れる)。

そして、普通の会社の多くは取締役設置会社であるが、取締役の過半数の決議により代表取締役を選任することになっている。代表取締役は会社の業務を執行することができ、強力な権限を持っている。

つまり、過半数の株式を持っていれば、代表取締役も押さえることができ、経営権を掌握することができる。

過半数の株式を持っている株主が個人であれば、社長はいわゆる雇われ社長ということになる。法人が株式の過半数を持っていれば、対象会社は子会社ということになり、グループ経営ということになる。いずれにしても、社長の地位は強くない。

一方で、社長自身が株式を持っていれば、いわゆるオーナー社長であり、社長の地位は非常に安定的になる。

2.過半数の株式を持つ者がいない場合

過半数の株式を持つ者がいない場合については、いくつかのパターンに分かれる。

(1)株主間で多数派形成が可能な場合
株主間で見解の相違があったとしても、お互いに協力し、共同して過半数の株式を抑えることができれば、単独の場合と同じような結論となる。

似たようなケースとして、合弁会社の場合には、通常は、株主の間で経営権の行使について契約が結ばれる。社長の人事権についても、合意が結ばれ、それに従って社長が選任される。

(2)多数派形成が困難な場合
上場会社の場合、株主が分散し、多数派形成が困難なことが多い。過半数の株主を有している者であれば、社長を呼び出してどのような経営をしているか報告させたり、具体的な指示をすることができるが、そのような株主がいない場合には、社長の裁量が非常に大きくなる。

なぜなら、少数派株主は、現在の経営陣に対してイエスかノーかを意思表示する程度で、対案を示せないため、特段の問題がない限り、現在の経営陣に対してイエスの返事をすることが多くなってしまうからだ。

このように、多数派株主がいる場合には社長の権限は弱く、多数派株主がいない場合には、社長の権限は強くなる。

3.経営権を掌握することの重要性

特に中小規模の法人については、取締役の報酬が剰余金の配当に代わる機能を果たすことが多い。経営権を掌握すれば、その会社の利益を直接的に得ることができる。

4.多数派形成が困難な場合の社長の権限

(1)自身の人事権
代表取締役は取締役会で選任されるので、社長の人事権は取締役会にあるといえる。社長が取締役会を掌握していれば、いつまでも自分を選任することができ、地位が安定化する。

逆に言うと、社長でなくても、取締役の過半数を押さえることができれば、いわゆるクーデターを起こし、社長を交代させることもできる。このようなことをしても、外部からは通常の社長の交代と同じで、真相が見えにくいことが多い。

尚、取締役会の構成員はそのメンバーの中から誰を代表取締役として選ぶかは基本的には自由であり、社長の意向に背いて社長を交代させても、本来の権限を行使しただけに過ぎない。権限の配分としては、総会→取締役会→代表取締役となっており、国政が国民→国会議員→総理大臣となっているのに似ている。取締役会の任務には、代表取締役の職務の執行の監督が含まれることにも留意しよう(会社法362条2項)。

(2)自身の報酬決定権
報酬は株主総会で総額について決議し、取締役会で配分について決議することが多い。そうすると、社長が取締役会を掌握していれば、報酬の引き上げも可能になる。

そうすると、人事権、報酬決定権のどちらを考えても、社長としては、取締役会を掌握することが重要となる。取締役会のメンバーを多くして団結させない、逆に少数にして取り込む、という方法が考えられる。

多数派を形成できない株主の対策としては、会社と十分にコミュニケーションを行い、社長が自己保身を優先していないかどうかチェックすること、また将来性に乏しければ株式を売却するという対応策が考えられる。もちろん、社長が会社法に違法する行為をしていれば、裁判に訴えることも可能だ。

5.まとめ

社長の人事権は、過半数又は多数派を形成できる株主がいる場合には、その株主がもっている。多数派形成が困難な場合には、事実上、社長自身にあることが多い。

その場合、社長が自己の地位を安定化させたい場合には、取締役会を押さえることが重要となってくる。これに対し、多数派を形成できない株主は、会社と十分にコミュニケーションを行うことが重要と考えられる。

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