従業員が退職した場合、競合他社への転職を防いだり、今までの顧客に対して営業をしたり、独立したりすることを防止することはできるだろうか?
以下の通りまとめた。
1.競合他社への転職をできない合意をする場合
判例の傾向からすると、無制限に元従業員の転職先を制限することはできない。職業選択の自由を保障した憲法に反するためだ。
ただ、一定の場合には有効とされる可能性がある。
有効とするためには、なるべく「しばり」の内容を軽くすることだ。それではじめて裁判所に有効性を認めてもらえる余地が出てくる。軽くする方法としては以下の通りとなる。
制限の期間:一般的に、1年〜2年程度であれば妥当とされる傾向がある。
地域の範囲:事業の実際の展開範囲を超える地域制限は無効とされやすい。
従業員の地位:従業員の地位が高いほど有効とされやすい。
職種・業務内容の範囲:対象業務が広すぎる場合、制限の必要性が否定されることがある。
代償措置の有無:競業避止義務を課す代わりに、相応の補償(例:退職後の補償金など)があるかどうかが重要だ。
ただ、これらを考慮したとしても、裁判所が総合的に判断した結果、「元従業員の自由を不当に制限している」と判断され、裁判で無効とされる可能性が残る。
2.顧客勧誘の制限について合意をする場合
顧客勧誘についても、その従業員の行為が自由競争の範囲から逸脱しない限り、否定的に判断される傾向にある。例えば、元従業員が自身の経験で付き合った顧客に通常の態様で営業をかけるのを防ぐことは一般的には難しい。
一方で、自身のつきあいのない顧客情報である等、社内で秘密として管理されている顧客データベースを利用することについては、制限を付けることは原則として可能だ。その場合、守秘義務を負わせる書面の内容には、何をしてはいけないか、可能な限り明確に記載し、義務の内容を特定する必要がある。