有価証券報告書の虚偽記載があった場合、民法上の不法行為(民法709条)に基づく請求と、金融商品取引法21条の2の規定に基づく請求ができる。最近出た判例の中からポイントをピックアップした。①の判例は、多数の原告がいる判例となっている一方で、②の判例は原告は1人である。
判例:
①大阪地判令和7年5月9日(2025WLJPCA05099001)
②大阪地判(堺支部)令和 5年 5月16日(2023WLJPCA05166002)
目次
大阪地判令和7年5月9日
1.法律構成
原告は不法行為に基づく請求と金融商品取引法(21条の2第1項)に基づく請求をしたが、後者は除斥期間の制限があるため(原則として金融商品取引法は2年、不法行為は3年)、請求の認容額を超えないとして後者については検討を要しないとした(不法行為のみ認定)。
2.市場要因による減額
株価が43.0%下落したが、同業他社4社も同時期に25.8%下落していたことから、市場要因の影響は60%であると認定。
3.取得時期の評価
平成22年6月24日、平成24年6月23日、平成25年6月26日の有価証券報告書に利益をプラス方向にする虚偽記載があり(各金額は288億9000万円、318億6000万円、478億4800万円)、平成22年6月24日から平成24年6月22日までに株式を取得した場合は30%、平成24年6月23日から平成25年6月25日までに株式を取得した場合は60%、平成25年6月26日から平成27年4月3日までに株式を取得した場合は100%と修正。
※ 株式取得後の虚偽記載は対象外となるための修正。古い時期に取得したほど、その後の虚偽記載が考慮されない結果、認定額が低くなっている。
4.相当因果関係のある株価の下落の範囲の認定
公表直前(平成27年4月3日)の株価512.4円、株価が下がった後の株価291.9円として、相当因果関係のある株価の下落の範囲を以下の通り認定。
① 取得単価<512.4円よりも低い場合は、
(1) 処分単価<291.9円の株式:取得単価―291.9円
(2) 処分単価≧291.9円の株式:取得単価―処分単価
② 取得価格≧512.4円以上の場合は、
(1)処分単価<291.9円の株式:512.4円―291.9円
(2)処分単価≧291.9円の株式:512.4円―処分単価
5.複数の株式の取得及び処分がある場合の処理
先入先出法ではなく期間ごとの総平均法を適用(個々の取得と処分とを紐づけせず、一定期間内の取得と処分とを割合的とらえて取得単価を算定。期間は、平成22年6月24日よりも前、平成22年6月24日から平成24年6月22日まで、平成24年6月23日から平成25年6月25日まで、平成25年6月26日から平成27年4月3日まで、平成27年4月4日以降)。また現物取引と信用取引を区別しない。
6.弁護士費用
弁護士費用(損害額の10%)の損害も認定。
大阪地判(堺支部)令和 5年 5月16日
1. 相当因果関係のある株価の下落の範囲
(1) 募集に応じて取得した分
金融商品取引法18条1項に基づく請求。
参考:金融商品取引法19条1項
(虚偽記載のある届出書の届出者等の賠償責任額)
第十九条 前条の規定により賠償の責めに任ずべき額は、請求権者が当該有価証券の取得について支払つた額から次の各号の一に掲げる額を控除した額とする。
一 前条の規定により損害賠償を請求する時における市場価額(市場価額がないときは、その時における処分推定価額)
二 前号の時前に当該有価証券を処分した場合においては、その処分価額
取得単価(取得日は平成30年6月5日)は2,878円で、処分単価(処分日は令和元年12月25日)は417円。公表日(令和元年7月24日)の株価は1,415円であり、それまでの下落分(2,878円―1,415円=1,463円)は他事情による下落と判断。
令和元年7月25日から令和元年8月7日(外部委員会を設置した日)にかけても下落しており、その期間の競合他社12社の株価の下落分について重回帰分析の手法により分析し、他事情による値下がり幅を192円と認定。
よって、2,878-417-(1,463+192)=806円を損害額の単価と認定。
(2) 流通市場(場)を通じて取得した株式
金融商品取引法21条の2第1項に基づく請求。
金融商品取引法21条の2第3項により、公表日の1年以内に株式を取得しているから、公表前1か月間の市場価格の平均(1,351円)から公表日後1か月間の市場価格の平均額(884円)を控除した額(467円)を、相当因果関係のある損害と認定。
2.弁護士費用
金融商品取引法に基づく請求であり、金融商品取引法は立証責任の負担を軽減してその保護を図る観点から、損害賠償責任の算定方法を定めていることから、弁護士費用相当額は損害とは認められないとした。